販売店のバトン 未来につなぐ
フジガス燃料(本社・札幌市)は2024年8月21日、Gas Oneグループのいちたかガスワン(同、佐藤勝治社長)に発行済み株式を100%譲渡しグループ入りした。両社をつないだ日本経営総合研究所(本社・東京、田中直樹社長)は2022年12月12日に「企業同士の結婚」の仲人として中堅中小企業が抱える課題をM&Aを通じて解決し、日本経済における機会損失の減少と日本経済のさらなる発展を強く思う理念の下、誕生した。今回の座談会は、フジガス燃料がGas Oneグループ入りした背景や事業承継に至るまでのリアルを出席者に語ってもらうことで、地域密着型ビジネスが企業の価値を未来につないでいく姿を浮き彫りにする。(石油化学新聞社提供)


座談会出席者
- フジガス燃料社長 藤原 誠人氏
- フジガス燃料代表取締役専務 池田 和宏氏
- いちたかガスワン取締役執行役員営業本部長 須藤 慎太郎氏
- 日本経営総合研究所LPガス業界戦略部長 佐瀬 孝至氏
経営をつなぐ決意

フジガス燃料、Gas Oneグループの紹介をお願いします。
藤原 創業は1962年で、札幌市西区にある米穀店が始まり。そこからコメの配送と燃料販売を始め、従業員の父は燃料部の責任者だった。1983年に燃料部門を独立させてもらい、元の米穀店に場所を借りながら「リビングはやし」という社名でスタートし1988年に「有限会社フジガス燃料」として現在地に移転した。当初はLPガスから始め、徐々に住設、リフォームを手がけるようになり、西区を中心にLPガス約800件、灯油約750件にまで成長した。
私は異業種で務めた後92年に入社、2004年に社長を継いだ。経営者として言葉ではなく実践でお客さまに安心を与えることを重視し、お客さまとの顔の見える関係を大事にしている。営業力よりも、お客さまとの信頼関係を積み重ねることで紹介やつながりを持てるよう努力してきた。
須藤 サイサンを基軸とするGas Oneグループは道内に当社を含め7社あり、各社で特色がある。そこを生かしながらGas Oneブランドをアイデンティティーとして事業展開している。フジガス燃料のお客さまとの顔の見える関係性はグループの企業理念「お客さま第一主義」と共通するものを感じる。
藤原社長がM&Aを決断された理由は。
藤原 実は「まだ若い」「まだやれる」と周囲から言われてきた。確かに業績も安定していたし、特段問題はなかった。ただ自分自身の中で「後継者を誰にするのか」「社員やお客さまを将来どう守るか」という課題を先延ばしにすべきではないと感じるようになっていた。今60歳だが、会社が厳しい状況になる前に、元気なうちに舵を切るべきだと考えるようになった。私と妻を含め社員が4人おり、技術を持つ優秀な人材が社内に揃っている今だからこそ、余裕を持って責任あるバトンの渡し方をしたかった。
社員の雇用も守ることもそうだが、お客さまにも急激な変化ではなく顔が見えるうちに徐々に変化していくことで、自分がいなくても事業が継続できる体制をつくりたかった。そのため事業譲渡ではなく株式譲渡を選んだ。それを模索していた時に、日本経営総合研究所の佐瀬部長との出会いがあった。警戒しなかったと言えばうそになるが、佐瀬さんは何でも話を聞いてくれた。疑問にも腹を割って答えてくれた。大きな決断をするにあたり、M&Aのビフォーとアフター、そして事業上の〝妄想〟話にも懸命に耳を傾けてくれた。〝想い〟をキャッチボールし続けることで信頼関係を構築できたのではないか。
佐瀬 2022年末ごろに実は、最初は〝飛び込み〟に近い訪問だった。お留守だったので手紙を置いて帰ったが、それがきっかけとなり連絡をいただいた。M&A仲介数社とお付き合いがあるなか、2023年夏に当社とアドバイザリー契約と秘密保持契約を結んでいただき、20回以上面談を重ねた。藤原社長からいろいろな〝妄想〟話と言われる事業構想を聞いたが、それらを実現するにあたっては経営資源が必要であり、M&Aも選択の一つだとお伝えしていた。構想の実現の一助になればと、想いを伺いながら関係を深めていくのはワクワクした。
熱意に応え受け皿に
須藤 藤原社長の将来を描く〝妄想〟と呼ばれるような思いも決して現実離れした話ではなく、話すほどに芯と熱量を感じる内容だった。そこを支える経営資源を当社で提供したいと思った。
藤原 2023年12月に行った最初の面談で、いちたかガスワンの親会社サイサンの川本知彦代表取締役副社長が出席された。最初の面談に出席してもらい、妄想話を真剣に聞いてもらったのが印象に残っている。販売店にも真摯に向き合い、大切にしてもらっている気持ちになる。
川本副社長もサイサン創業100周年になる2045年に「世界でナンバーワンのエネルギー小売会社になることを目標としている」と言われた。それが眩しく見え、託すならこういう会社がいいと思った。夢ややりがいをもって働きたいし対話を通じ本気で業界について考えていることが伝わってきて、Gas Oneグループに共感するようになった。また、技術力がある社員が継続して働き、実力を発揮しやすいのはGas Oneグループだと考えた。
佐瀬 Gas Oneグループは大家族主義を掲げており、フラットに関係をつくられているのが魅力の会社だ。藤原社長から社員の活躍の場をつくってほしいという要望があった。川本副社長も「社員が活躍できるように、場所と機会を積極的に与えていきたい」と考えられていた。
市場にかなう技術力

Gas Oneグループ入り後、フジガス燃料にどのような変化が起こったのでしょうか。
池田 いちたかガスワンから出向し、すぐに相乗効果が出せると感じた。一番大きかったのは技術力の再発見とGas Oneグループでのシナジーだろう。特に灯油地下タンクなど大型灯油設備に関する技術を持つ社員の存在は大きく、北海道ならではの需要とマッチしていると感じた。例えば灯油利用のマンションには地下タンクが設置され、そこから灯油を全戸に供給する仕組みになっているなど大量消費のための設備が多い。にもかかわらず、土地柄と特殊性ゆえ全国規模の設備業者が介在しづらいレアな領域となっている。
今ではいちたかガスワンのルートなどを使いながらその技術を生かすのに注力し、その結果社員も1人増やし地下タンク事業自体の売り上げは1.5倍に拡大している。
藤原 当該の社員は配送スタッフとして入社したが、自ら技術提案し「やっていいですか」と積極的だった。当初は社内でも半信半疑だったがやらせてみたら見事に成功。私自身「これは本物だ」と思い、彼には良いステージを用意してあげたいと考えた。北海道全体でナンバーワンを目標にしてほしい。もう1人の社員もエネワンでんきの販売で活躍し、本人の自信につながっている。
池田 私ともう1人社員が入り6人体制となったが、人に恵まれたと感じる。グループ入り後も社員の動き方や社風にブレは感じない。藤原社長がお客さまに寄り添う理念を日ごろから徹底してきたことが、Gas Oneグループの企業理念「お客さま第一主義」「凡事徹底」が自然と根付いている証だと思う。受け入れてもらうのが早くてありがたかった。
藤原 お客さまにとって不安なのは「会社が変わったことでサービスも変わるのでは」ということだ。お客さま、社員に理解してもらいながら少しずつ変えていってほしかったし、そうさせていただいている。本当にこちらの形で任せてもらっている。将来、たとえ社名が変わったとしても、現場で対応する社員が変わらない。それだけでお客さまは安心するはず。
固有の良さ継承発展
池田 お客さまにGas Oneのやり方をすべて押し付けることはしない。これまで築かれてきたフジガス燃料の良さを尊重し、必要な変化がある場合は「なぜそうなっているのか」理由を考えながら良くしていく。長い年月をかけ、お客さまがGas Oneのマークが付いたフジガス燃料に慣れ親しんでいただくのが一番良い。
藤原 卸事業者との取引も買収後に変わることはなかった。もともとの卸事業者への想いもあり「取引を続けても構いません」と言ってもらい、変わらずに付き合いを継続できて感謝している。
須藤 急激な変化は逆効果と考えている。だからこそ、既存のお客さまや社員が安心して新たな体制になじんでいけるようにしている。
元気なうちに冷静考察
LPガス業界全体を見渡すと「元気なうちの決断」はまだ少数派です。多くは後継者不在、人材不足、業績の悪化など「ぎりぎりのタイミング」で判断するケースが目立ちます。
藤原 地方に行けば行くほど事業承継の悩みを抱える販売店は多い。いろいろな判断はあるが、当社はそのまま5年続けるのが大変な会社というわけではなかった。ただ10年先を見ると人材の確保が大変になると考え早めに次のステージにバトンを渡した。こういう判断の仕方もあると思う。
「息子に継がせたいが本人は全く興味がない」「この仕事がきつくて続けさせられない」といった話を何度も聞いてきた。でも業界自体が〝ぎりぎりまで自力で粘る〟という文化であるように思う。ただ、元気なうちに一度冷静に考えてみる時間を持ってほしい。
佐瀬 販売店と伴走する立場としては、寄り添うことを意識している。販売店にとって大きな決断なので、結婚のようにマリッジブルーをほとんどの経営者が経験する。当社としては、M&Aを強引に推し進めるつもりは全くなく、納得いただける選択をできるように情報を提供している。そのうえで経営者がM&Aを断る判断をされた場合でも、われわれの情報が役立ったと考えている。
われわれのような仲介事業者は中立な立場だからこそ伝えられること、そして選択肢を広げることが可能だ。何度も面談を重ねるなかで「断ってもいい」「今は判断しなくてもいい」と伝えることが信頼につながっているかもしれない。最後には「相談してよかった」と言ってもらえるのが一番の喜びだ。
須藤 結婚したから終わりではなく、後がすごく大事だと思っている。当社ではM&Aアフターと言っているが、歩調を合わせながら力を合わせていけるように心がけている。佐瀬部長はそこの相談にきちんと乗ってくれ、本当に親身になってくれている。
販売事業者のあり方は多様だが、それを生かしながらともに成長していける会社にはGas Oneグループに参加してもらいたいし、企業理念を共有しながらともに頑張っていきたい。
藤原 売り上げが好調だから辞めるのではなく〝好調だからこそ、より良い形で継ぐ〟。その考え方に共感してくれる人がもっと増えると、業界全体も前向きな変化が起きるのではないか。
志ある企業と仲間に
最後に、それぞれの立場での今後の展望とLPガス業界に向けたメッセージをお願います。
藤原 Gas Oneグループ入りか1年が経ち「やってよかった」という実感がある。LPガス法省令改正への対応などの経営判断は池田専務と相談できたり、楽しく仕事ができている。社員も事業も成長し、自分が現場を離れても安心して任せられる体制が整いつつある。家族からも「良くなったね」と言われ、これまでの経営努力の上に立つ新体制が評価されてうれしい。地域密着の精神は変えずに、Gas Oneグループの一員として地域に貢献していきたい。事業承継を迷っている経営者には、「勇気を持って、納得して選ぶこと」の大切さを伝えたい。
池田 社員も技術を生かす場が増え、「任せてもらえる」「活躍できる」という感覚がモチベーションになっているように見える。今後は技術の伝承と人材育成に注力していきたい。北海道という特性に適した事業領域はまだ多く残っている。そこをきちんと掘り起こすことで、地域の若い世代にも「この業界で働きたい」と思ってもらえるようになれると良いと思う。
須藤 私たちは〝買収〟ではなく〝仲間づくり〟の視点で動いている。今後も志ある地域企業と連携しながら持続可能なエネルギー供給体制の構築に貢献していく。
佐瀬 当社はLPガス業界戦略部を立ち上げ、LPガス事業者のお困り事の解決を支援している。本件のような株式譲渡だけではなく、事業譲渡の支援も可能だ。今回、仲介事業者として本当にやりがいを感じたお話だった。今回のご縁のように譲渡企業の社長の想いや社員の力、そしてそれを譲り受ける企業の受け止める力。それぞれが真摯に向き合い、信頼を築きながら最善の形を見つけていくM&Aのプロセスを広く知ってもらいたい。今後も〝契約を結ぶための仲介〟ではなく〝納得のいく決断を支援する伴走者〟として動いていきたい。
譲渡企業
- 企業名
- 有限会社フジガス燃料
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- LPガスなどの燃料販売
- 売上高
- 約1.5億円
- M&Aの検討理由
- 後継者不在のため
譲受企業
- 企業名
- 株式会社いちたかガスワン
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- 家庭用・業務用LPガスや灯油の販売、家庭用・業務用電力の小売、高効率燃焼機器への転換提案、太陽光発電所の運営など
- 売上高
- 約158億円
- M&Aの検討理由
- 既存事業の強化